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蕎麦屋は食うか食われるかの真剣勝負

大晦日の蕎麦屋で繰り広げられる無言の闘いの壮絶さ



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そば

素人相手に玄人が見栄きり立ち回るのがラーメン屋なら、蕎麦屋というのは玄人と玄人の真剣勝負だ。

名店ともなると、しかもそれが大晦日ともなると、蕎麦通を自負する常連客がどっと押し寄せて来るのだから、店主にとってはたまったものではない。次から次へとやってくる蕎麦通をちぎっては投げちぎっては投げの百番勝負に、新年を迎える頃にはすっかり精魂尽き果てている。

だから本当の蕎麦っ喰い達は、まだ店に活気がみなぎる明るいうちに訪れ、店主との今年最後の勝負を楽しむのだ。

そして、今日がその大晦日だ。

私は昼過ぎにある店の暖簾をくぐった。この辺りでは一番腕利きの職人がいる店だ。

半年ぶりだろうか、品書きを見て変化に気付く。以前は店主のこだわりから笊は一枚しか頼めなかったのだが、一体どういう風の吹き回しか二枚盛りと書かれている。さらには十割しか出さなかったこの店が二八蕎麦も始めたではないか。

私は十割の二枚盛りを頼んだ。

しばらくして運ばれて来たのは、蕎麦猪口がふたつに、薬味も二杯分。さらにその後、一枚目の笊が来た。一枚目で蕎麦つゆの味は変わってしまうのだから、二枚盛りにはそれぞれ別の猪口を使うというのは納得だ。

さて一枚目が食べ終わろうかという頃、そば湯が運ばれてきた。二枚目を喰う前にここで出して来たか。私は猪口にそば湯を注いでしばらくつゆの味を楽しんだ。

そうしているうちに二枚目の笊が来た。

一本とってすすってみる。一枚目よりもやや固く茹でられている。だがそれだけか?違う。蕎麦粉自体が違うものだ。

利き蕎麦か!?

私は試されているのか。胸が高鳴り始める。しかし私など蕎麦っ喰いの端くれに過ぎない。わざわざこの繁忙期にそんな罠を張ってくるものか。私はふたつめの猪口に蕎麦をつけてすすってみた。

やられた。

つゆの味も違うではないか。二枚目の蕎麦によく合うよう、鰹も醤油もぐっと強く前に出ているのだ。ここまでの組み立てが出来てこその二枚盛りだったか。

いや待てよ。最初に猪口が二つ出て来ているのだ。その時点で私がどの猪口から先に手をつけるかなど誰にも予測できないはずだ。にも関わらず、二種類の蕎麦とつゆを合わせるとは一体どういう仕掛けだ?

私は試しに、一枚目で使ったつゆの残りをもう一度飲んでみた。しかしそれも後の祭り。そば湯を足したせいで味比べなどできなかった。この謎を解く唯一の手がかりが失われたように思えた。

完全に私の負けだ。

やられたよ店主。二枚目の蕎麦を食べ終えた私は、そう心のなかでつぶやきながら、猪口にそば湯を注いだ。そしてそれを口に含んだ瞬間、一気に謎は解けたのだ!

二つの猪口に入ってるつゆは同じだ!! 両方をそば湯で割った今だからこそ分かる。これは同じものだ。

確かに同じものだがしかし、一枚目を食べ終えたあとに、私はそば湯で薄めたつゆを飲んでいる。それが二枚目のときのつゆをより強く濃く感じさせていたのだ!舌と嗅覚の感度を絶妙に利用したマジックだ。そうだろ?その通りだろ店主?

私の無言の呼びかけに、カウンターの店主はちらりとこちらを見やり、またすぐに目をそらした。



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投稿者 愛場大介(Daisuke AIBA / Jetdaisuke) : 2007年12月31日 19:24

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