ノマドワークを語るなら練馬の漫画家・アニメ屋を忘れてはいけない
僕がこの練馬区(=「まち」と読む)に引っ越してきたとき、最初に住んだマンションの向かいには、某アニメ会社の大きなビルがあった。
ファミレスや喫茶店などに行くと必ずといっていいほど茶封筒を持った男がいて、漫画やらアニメやらの打ち合わせをしたり、絵コンテを描いたりしていた。
僕自身、この石神井公園の近くに住むことになったのはアニメ屋さんの影響だ。
まだ前世紀のこと。
大阪で会社員をやりながら、その他にアニメやゲーム関連の仕事を請けていた僕だが、いつまでも関西でくすぶっていても仕方ないので上京しようと思い立った。そこで相談したアニメ屋の友人が「じゃあ石神井公園かな」と薦めてくれたのだ。
子供もいたし、大阪城公園の近辺に住んでたときの印象もあって、東京で大きな公園の近くに住みたいと言ったのだ。それで返ってきた答えが石神井公園だったというわけ。
あ、そうそう、なぜ練馬区とアニメ屋が関係あるのかといえば、トキワ荘のあった場所から東京の北西へと関連する諸々が放射状に広がっていったために、練馬区界隈はアニメ・マンガ関係の方々がヒジョーに多いと言われてる。
件の友人も例によって練馬区のプロダクション勤務で練馬区在住だったので、大きな公園と言われれば「石神井公園!」と口をついて出てきたと。
実際住んでみて、当時はアニメ屋さんとかゲーム屋さんからの仕事が主だったので、西武池袋線にほとんどの訪問先が含まれているというのがなかなか便利だった。
その後、大好きだったミリタリーブランドの東京ファントムでデザイナーをやることになったんだけど、これも西武線沿線ということで、特に引っ越す必要もなくそのまま練馬区に住み続けた。
そんな生活環境で気づいたのが茶封筒の男たちの存在。おもにジョナサンに出没。漫画のネームなのかアニメの絵コンテなのか、とにかく黙々と描いてたりする。または二人組で談笑しながらアニメのストーリーについて語ってる。おそらく監督さんか脚本家か。
なぜそこまで目にとまるかと言えば、僕自身もジョナサンに仕事を持ち込んでいたから。今だったらノートパソコンを持っていくところだけど、当時はタワー型のMacでないとろくにやりたいこともできないどころか、そもそもPowerBook自体がスペックに比して割高のうえに重過ぎて使う気にもならなかったという…
それでも外で仕事できたのは、鉛筆一本でやれたから。
広告やカタログなんかの仕事はぜんぶ鉛筆と白黒コピーの切り抜きでレイアウト決めて、あとはDTPやる会社に外注してたし、Flashアニメーションやイラストの仕事なんかも社外から請けていたけど、それも基本は鉛筆から組み立てるし。
で、同じくジョナサンにいるアニメ屋さんたちも同様なの。鉛筆一本でシコシコやってるんだな。あと、もう少し上の世代の人たちは文筆家なのか、原稿用紙に向かう人もたまにいたな。
なぜこんなことを書いているかといえば、今まさにファミレスにいて、僕の隣の席には絵コンテマンがシコシコと絵コンテ用紙を埋めているから。嗚呼こりゃ昔ながらのノマドワーカーじゃないかと思ってしまったのだ。
フリーランスの絵コンテマンなんて練馬区にはなんぼでもいて、昔からファミレスで描いてるのだ。
ノートパソコンのスペックが上がった、モバイル通信環境が整った、それでようやくオフィスの外に出られるようになった職業=いまどきのノマドワーカーという存在は、彼ら絵コンテマンにしてみれば ようこそおこしやすといった感じだろう。「2001年宇宙の旅」でいえば、ようやく君らも木星まで来たかと。さあスターチャイルドになりなはれと。いや、知らんけど(笑)そんな考えに及ぶこともないほど常態かもしれない。
結局のところ、田畑も漁場も工場も店舗も持たずの業態ならノマドスタイルが出てくるのも当然で、パソコンと通信に縛られた人々の羽化が遅かったというだけだ。
さて、ノマド、ノマドと騒がれると案の定、こういうことを言う子供が出てくる。
「僕も大人になったらカフェで仕事したいです」
なんだかなあ。
君はサッカー選手とかパイロットにでもなりなさい(笑)
あと、よく尋ねられるのは
「MacBook Airでも動画編集できますか」
こちとらCPUクロックが数十メガヘルツの時代からDTVやってたわけで何をか言わんや。そもそもそんな時代でもどうにかなったのは、それ以前の経験があるからで、
「僕も大人になったらカフェで仕事したいです」
なんてことを本気で言ってるなら職の不在すぎて手に負えない。
「僕も大人になったら海で仕事したいです」でもいいし
「僕も大人になったら廊下で仕事したいです」ですらいい
やれやれ。
やりなさい。
やればいいよ。
それにしてもなあ、昔いた会社で「特定の座席を決めない」所謂フリーアドレスが提案されて、僕の使用するMacやら大画面モニタまでもがノートにされてしまいそうになったときは猛反対したものだが、そんな僕も今ではノートしか使っていない。それで充分だとすら言ってしまう。すごいね色々と。
投稿者 愛場大介(Daisuke AIBA / Jetdaisuke) : 2012年4月17日 03:05