アドビ製品はケーキミックスのマーケティングと同じ手法でクリエイター向けに提供されているのではないか?
職人なら「仕事」をするのは当り前のことですが、板前や大工のそれと違って、コンピュータが当り前の現場だとちょっと話は違ってきます。
昔はあれもこれも手作業でやっていたことが、コンピュータによっていとも簡単に・・・例えばデザイナーだと慎重なデザインナイフさばきをせずとも写真の切り抜きができてしまうわけです。で、ソルベントだのセメントだのは不要で、レイヤーを自由な位置に何度も何度も移動できてしまったり。
むかし打ち込み音楽やってた人で、アルペジエイター搭載あたりからつまんなくなったと言ってた方がいました。いまや音楽の自動生成は当り前に近くなっていますよね。アマチュア向けビデオ編集ソフトなどもかなり自動的にダーッと済ませてしまう力技ツールがありますわ。
Adobe Photoshop CS5なんかは「コンテンツに応じる」という必殺技一発でなんでも消してしまいますし「Photomerge」機能を使えば複数の写真を自動的にパノラマ合成してしまいます。
例:君んちも見えるほど巨大な東京のパノラマ写真を撮ってみた
しかし!
そのPhotoshopに関してはもっともっと簡単かつ自動化できそうなのに、クリエイター自身の手で作った感を醸し出すようなツールとして提供しているように思えてきました。
じつは先ほどPhotoshopで文字詰めしていたんです。カーニングというやつです。昔ある人が「文字詰めするのはデザイナーの重要なシゴト」だと仰ってたのを、カーニングしながら思い出しました。
ところがこれ、いかにも自動化できそうですよね。自動カーニングという機能もありますがそれではなくて、ロゴやテロップなどを作るときの、なんかこう思った通りの美しい状態に字詰めしてくれるような自動ツールね。そんなの「コンテンツに応じる」よりよっぽど簡単に開発できる気がするんですけどね。まあフォントメーカーとの協力は必要になるでしょうけどね。
それで私がこないだ面白いと思ったブログ記事があるんですけども、ケーキミックスが発売されたときあまり売れなかったらしいんですね。ケーキいうのは手間かけて作るもんやから、手間要らずの粉なんか恥ずかしいわと。以下、その記事からの引用です。
ケーキミックス — 知識・教養ライブラリー — Yahoo!ブログ
水を入れて溶くだけでできるケーキミックスは1940年代にアメリカで発売されたが、最初はあまり売れなかった。その理由は、ケーキというものは祝い事などに作る感情がこもった料理なので、インスタント的な手法で作ったケーキを人前に出したりするのは、恥ずかしかったり、手抜きと思われがちになってしまうからだ。
女性は家庭にいて家事をするものという認識だったころは、インスタント食品の類いはそのように感じられていたというわけですね。じゃあどうしたかというのが次になります。
そこで心理学者でマーケティングの専門家であったアーネスト・ディヒターが思いついたのは、ミックス粉の材料の中から卵の成分を取り除き、料理する時に女性に卵と牛乳と食用油を加えてもらって作れるようにした。そうして、このケーキを作る女性は、「自分でちゃんと作ったケーキ」と認識できるようになって販売数も伸びたのである。
「自分でちゃんと作ったケーキ」と認識するには、ほんの少しだけでも「仕事」が必要ということですわな。こことても重要。
Photoshopのカーニングももしかしたら「クリエイターの僕が自分でやりました」という気分になるための仕様なのかもしれないですね。
もちろん全自動でやってくれたとしても、出来映えが本当に美しいかどうかという審美眼が必要になるわけですけどね。しかし仕事という意味では大きく変わってきます。
ああーそういえばAfter Effects CS5のほうだとペロっとブラシか何かでなぞるだけで人物を切り抜いてくれる魔法みたいなツールがあったはず。そういうのPhotoshopに載せてくんないのはやっぱりケーキミックスの売り方なのかな?
それにしてもPhotoshopをアップグレードする金額だけでも、同様の高機能ソフトである「ピクセルメーター(Pixelmator)」がいくつも買えてしまうんですよね。
レビュー記事:ピクセルメーター(Pixelmator)は MacBook Air に最適なフォトレタッチソフト
そこまで高価なソフト買ってるんだから、むしろ私は自動的にパパーッと片付けてくれると嬉しいです。金払って自分でやるなんてバカみたいじゃない。昔だったら少しは楽しんでやったかもしれないけど、今となってはコンピュータが自動でやれるとこは全部やってしまって欲しいところです。
それにiPhone AppとかWebサービスでも目を見張るようなスゴイものが出てきていて、それぞれは単機能のものながらPhotoshopよりずっと簡単に自動生成で済ませてくれます。たとえばVanishing PointのようなものはPhotoshopの機能以外にも、自動生成するツールや、Webサービスなんかでも似たのありましたよね。
iPhoneやiPadのようなデバイスが一般的になってくると、腰据えてなにかを作り込むというよりも、単機能で自動生成のAppを目的のぶんだけインストールするという形が理想的です。対してアドビ製品はなんだか先述のケーキミックスそのものですよね。クリエイターの作った感を満たしてあげるためのツールになっているんじゃないかと思います。だからこそまだ売れてるというのもあるんでしょうけどね。
投稿者 愛場大介(Daisuke AIBA / Jetdaisuke) : 2011年3月 1日 18:24