きのう見たゴキブリの速度を僕達はまだ知らない
嫁とふたりで定食屋に行き、いつものセットを注文した。
テレビを見ながら料理が来るのを待っていたところ、嫁が突然、私の背後の壁を見て驚いたような表情を見せた。
その直後!
何が起きたのかは書かない。
想像にお任せすると言いたいところだが、店に居合わせた客と店員すべてを巻き込んでの、想像を絶する出来事だった。
それから約22時間後
夏のゴキブリの速度は一体どのくらいの速度なのだろうと考えながら、私は帰宅した。
昨晩スーパーで買ったコロッケがのこっていたので、ひとつつまんでみた。
そのコロッケの湿った衣の欠片のひとつが、食道ではなく気管のほうへまっしぐらに進んだ。
次の瞬間、口のなかにある砕けたポテトやミンチやらが一斉に飛び出すほどの勢いで咽せた。
それだけではまだおさまらず、風邪をひいてもこんなひどい咳は出ないだろうというほど長く、何度も何度も咽せた。
その間ずっと息苦しく、いよいよ酸欠で倒れるのではないかと思い始めたとき、ようやく収まった。
コロッケの衣は人を殺す。
これほどまでに恐ろしいものを私は今まで「大好物」だと称して口にしてたということか、または衣ごときで咽せるほど自分が老いたのか。
理由は両方だと直感し、肉体が持つ脆弱性に涙した。
そして、死と背中合わせにも関わらず、正月の老人が餅を食べずにはいられないことをようやく身体で理解した。
好奇心が猫を殺す。
コロッケ好きがコロッケで死ぬ。
これまで何故コロッケが好きなのかと問われたことはないし、自分でも理由を考えたことがなかった。
しかしようやく解った。
コロッケの魅力は、そこに秘められた殺意だったのだ。
その衣の欠片ひとつひとつに込められた殺意に打ち克って、私は満足を得るのだ。
これからは無意識にではなく、完全に意識した状態でその勝負を行うことになる。
私は、より次元の高いコロッケの楽しみ方を知ったのだ。
さあコロッケよ、私を殺しにくるがいい!
その殺意のすべてを私は受け止める覚悟だ。
投稿者 愛場大介(Daisuke AIBA / Jetdaisuke) : 2013年7月11日 19:53